虚構の中の真実 時代劇のヒーローたち

遠山金四郎(後編)〜誰も知らなかった桜吹雪

金さんの“抵抗”

やり過ぎって、どういうこと?


庶民に対する最大の弾圧が娯楽への規制だ。「人情本」と呼ばれて女性に人気があった恋愛小説を、エロ小説と断じて版木ごと焼却したり、装丁の豪華な本まで処分された。これが原因で人情本作家の第一人者、為永春水や、旗本の身分を隠して戯作を書いていた柳亭種彦が失意のどん底で死んでいった。実は、これらの出版弾圧を取り仕切ったのが、他ならぬ遠山景元なんだ。

え〜、意外。金さんって、庶民の味方じゃなかったの?


こうした取り締まりに関して、遠山が逡巡していたという記録は一切無いから、ある程度正しいと思ってやっていたんだろう。これに加えて水野は、女浄瑠璃の禁止、寄席の撤廃、富札の制限、派手な凧の禁止、贅沢な料理・菓子の禁止、贅沢な建築の禁止、初物の禁止、お祭りの規制、浮世絵の規制と、微に入り細にわたって庶民のささやかな娯楽を奪っていった。ただ、弾圧が歌舞伎にまで及んだ時には遠山も黙ってはいられなくなった。

なんで? 金さんは歌舞伎ファンだったの?。


江戸の三代娯楽と言えば歌舞伎、相撲、吉原の3つだ。さすがの水野も相撲にはイチャモンをつけなかったけど、吉原以外の岡場所はすべて禁止した。料理茶屋のように売春とは無関係の商売でも、女性がいるだけでイカンというのだから厳しい。歌舞伎に関しては、まず当時のナンバーワン役者、七代目市川団十郎を、生活が派手だということで江戸追放処分にしたんだ。

ひど〜い。スターなんだから生活が派手になるのは仕方ないわよね。


団十郎は信仰していた成田山新勝寺に移り住んで、その後は上方に活路を見いだす。問題はそれからだ。当時江戸には江戸三座と呼ばれる芝居小屋があった。そのうちの中村座が火事で焼失した際に、立て替え禁止のお触れが出た。水野としては、これを契機に江戸の芝居小屋を無くしても良いのではないかと考えた。しかし、歌舞伎は娯楽の王道だ。そこまでやったら暴動になりかねない。無用なトラブルは避けたいと思ったのか、遠山は正面から異議を唱えた。

やっぱり金さんはそうでなきゃ。


結局、遠山の説得もあって、江戸三座は市街地から郊外に移転と言うことで決着する。その移転先が、今の浅草なんだ。浅草の繁栄はここから始まるわけ。しかし、こういった弾圧で、江戸市中で庶民がお金を落とすところを殆ど潰しちゃったわけだから、江戸の経済はいっぺんに冷え込むし、人々のモチベーションも下がる。それで、遠山も矢部も事ある毎に「行きすぎた規制」を止めるように水野に訴え始めるんだな。

町奉行としては、庶民を苦しめる政策には賛成できないということね。


水野は、反対はしても最終的には命令に従う遠山は買っていたようだけど、反対するとテコでも動かない矢部は許せなかったようだ。急遽、鳥居と遠山に矢部の身辺調査を命じる。要するに、罷免するネタを探してこいということだ。

金さんの胸のうちは複雑だったと思うけど、鳥居さんはやる気満々だったでしょうね。

鳥居が張り切るのは当然だ。何しろうまくやれば次期南町奉行の椅子が待っているんだからね。そこで鳥居は、矢部の前任者である筒井政憲が行った飢饉・物価対策に関わる不正疑惑を持ち出してきた。

前任者の問題なのに、矢部さんの問題になっちゃうの?


これがねぇ、なかなか複雑怪奇で謎の多い事件なんだ。ちゃんと説明すると長くなるから、とりあえず要点だけ話そう。
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