虚構の中の真実 時代劇のヒーローたち

遠山金四郎(前編)〜誰も知らなかった桜吹雪

そんなことしたら、かえってみんなの反感を買うでしょ。逆効果なんじゃないの?

まさにその通り。しかし、水野はこれを幕府や大名にも徹底させようとした。特に前将軍・家斉によって肥大化した大奥も粛清したから、改革は抵抗や反発が強くて、最初から大荒れだ。

まず身内から削るっていうのは今の民主党にもやってほしかったわね。でも、どうしてそこまでしなきゃいけなかったの?

その理由はこちらのページで読んでもらうとして、天保の改革での経済政策の柱は大きく4つある。「株仲間の解散」「上知令」「貸金無利息年賦返済令」「人返しの法」だ。

「貸金ナントカ」っていうのは何となくわかるけど、他のはチンプンカンプンね。

それぞれ説明すると長くなるから、専門家からのツッコミを覚悟の上で、ごく簡単に説明すると、「株仲間の解散」の意図は、独占市場を解体して、商品流通を自由化すること。

凄くいいことのように聞こえるけど…。


水野の狙いは価格競争を促し、商品の流通量を増やすことで物価を下げることだった。今で言うなら電気料金の自由化みたいなものだな。株仲間というのは冥加金を幕府に納めた者が市場の独占権を得るというシステムだったんだけど、幕府にとって大きな収入源になった代わりに、特権商人や役人間での賄賂の横行という悪弊を生んでいた。

じゃあ、止めてよかったんじゃないの?


ところが、水野は現状を理解していなかった。すでに全国に多くの新興商人が台頭して安売りを始めていたし、株仲間の影響力が及ばない農村部で綿工業が発達してきたから、都市部への商品供給を株仲間が一手に抑えるというのは難しくなっていたんだ。しかも、株仲間の実体は水野が考えたような「闇カルテル組織」ではなくて、むしろ商品の安定供給を図るための「内部統制組織」だった。

どういう意味?


当時、商品流通の中心は大阪だ。全国の商品は米を中心に一旦大阪に集積される。しかし当時の現状は、大阪に届く前に商品が売買されてしまって、常に品薄になっていた。だから株仲間は、その中から何とか商品を確保して江戸に送っていたわけ。つまり、株仲間は価格をつり上げるどころか、安定供給によってむしろ抑えていたということになる。しかも、株仲間は支払いや契約不履行に対して常に目を光らせていたから、安心して取引できるメリットもあった。

っていうことは、それを解散させたら…。


当然、江戸への安定供給は望めなくなり、むしろ物価は高騰する。商品の買い占めも横行するし、信用取引のシステムも崩れる。つまり、結果は大失敗だ。しかし、幕府にはこの結果を事前に予測していた幹部もいた。その代表が町奉行の2人だ。

金さんもわかっていたのね。じゃあ、当然反対したでしょうね。


だから景元は発令するのをためらった。商人達の反発は必至だし、彼らに落ち度があるわけでもない。どう考えてもこの発令は理不尽だ。しかし、役人である以上、上司の命令には逆らえない。そんな葛藤があったんじゃないかな。結局、「株仲間解散令」は決定から4日後に発令されるんだけど、発令を遅らせたという罪で、景元は将軍へのお目通りをしばらく禁じられることになる。

金さんは悩んだでしょうね。でも、軽い処分で良かったじゃない。


ところが、この発令に公然と反旗を翻した男がいる。それが南町奉行・矢部定謙だ。
後編に続く