続・虚構の中の真実 時代劇のヒーローたち

荒木又右衛門〜決闘のリアリズム

其の参 大名VS旗本

なんでアイツの方が給料が高いんだとか、こっちのほうが立場が上なのにとか、そういうサラリーマン的感覚に近いわね。

この話が広がると、くすぶっていた旗本側の不満が一気に燃え上がって、安藤側に加担する旗本が増えてくる。対する大名側も、旗本に舐められてたまるかと、池田側に加勢するムードが高まってくる。結局、膠着状態を打開するために池田側が幕府に陳情するんだけど、事件が起こった寛永7(1630)年は、将軍家光がまだ若干26歳で、徳川の支配体制も盤石とは言えなかったからね。どちら側に加担しても戦乱の火種になりかねない。そこで幕府の定法となっていた“喧嘩両成敗”を適用して幕引きを図ろうとした。

“喧嘩両成敗”って、具体的にはどういう裁定をしたの?


安藤側は謹慎、又五郎は江戸追放という処分だ。誰がどうみてもこれで解決するとは思えないけど、双方の顔を潰したくない幕府としてはこれが精一杯だったと思うよ。しかし、こうなると収まらないのが池田側だ。弟を殺された数馬は又五郎を討たなければ立場がないし、池田忠雄にしても面目丸つぶれだ。

そこで、義理の兄さんの荒木又右衛門さんが登場ってわけね。


筋が通らない

確かに、剣術が苦手な数馬は身内で最も強い又右衛門を頼りにしていた。ところが又右衛門はその依頼を断る。義兄と言っても又右衛門は他藩に仕える身だし、第一、最初に言ったように兄が弟の仇を討っても仇討ちにならない。助太刀するには筋が通らないというわけだ。

じゃあ、数馬さんは同じ藩の誰かを頼ればよかったんじゃないの?


だから、それも筋が通らないんだ。仇討ちとして認められないんだから。仇討じゃなかったらただの復讐になる。かといって刺客を放つのであれば数馬を含めて何人かを脱藩させなければならない。

昔のお侍さんって筋を通すことが第一だったのね。


今の政治家とは大違いだな。さて、ここからは史実かどうかはわからないから、話半分に聞いてほしんだけど、困った池田側は半左衛門と又五郎の“父子交換”という策に出る。しかしこれがまんまと安藤側に裏切られる。「半左衛門は以前、当家より出奔した者ゆえ、当家にて処分するのが筋。ゆえに交換条件にはならぬ」というわけだ。まんまと父子共に奪われた池田側は当事者が切腹という事態にまで発展。こうなると大名側も黙っちゃいない。その筆頭が伊達政宗だ。

えっ? どうして独眼竜が出てくるの? 話としては面白いけど。


正宗の嫡男、伊達忠宗の正室・振姫は池田忠雄の妹だ。

忠雄さんから見ると、独眼竜は妹さんが嫁いだ先のお舅さんってことね。


又五郎の首

これに対抗しようと、旗本側も重鎮・大久保彦左衛門を担ぎ出す。こうなると痴情絡みの刃傷事件が、いつの間にか外様大名VS直参旗本の構図にすり替わって、天下大乱の引き金になろうとしていた…というのがよくある「伊賀越」のストーリーだ。

それってホントの話? かなり“盛ってる”感じがするけど…。


そんな折も折、池田忠雄が31歳の若さで急死する。死因は天然痘とも毒殺とも言われている。その辺の真偽はよくわからないけど、臨終の間際に「墓前に又五郎の首を供えよ」と言い残すんだな。これで池田側の肚は決まった。
<5ページ目に続く>