続・虚構の中の真実 時代劇のヒーローたち

荒木又右衛門〜決闘のリアリズム

其の弐 仇討ちの発端

ところで、仇討ちっていうことは、何か事件があったんでしょ。その辺の事情を聞かないと何の話だかわからないわ。

荒木又右衛門とか鍵屋の辻と言えば、いちいち説明しなくてもこのサイトのファンなら知ってると思うけど、キミのために一応ひと通り説明しておこう。ああ、面倒クセェ。

何が面倒クセェよ! ワタシみたいに知らない人のほうがフツーだと思うわよ。

恋する男の犯罪

事の発端は河合又五郎の横恋慕だ。しかも、一方的な片思いだから始末が悪い。

あ〜、又五郎さんはどっかの女子に恋してたわけね。もしかしたら又右衛門さんの奥さんとか…。

そう思うだろうが、相手は男だ。二代目数馬の弟、源太夫だ。

え〜〜っ、男同士の話なの? ビックリ! しかも江戸時代でしょ!

男性同士の恋愛は「衆道」と言って、武家社会ではそんなに珍しい話じゃない。有名な『葉隠』にも、武士道における男色の心得なんかが書かれているくらいだ。源太夫は藩内でも有名な美少年だったから、小姓として藩主・池田忠雄のお気に入りだった。

じゃあ、又五郎さんは殿様のカレっていうか愛人に恋しちゃったわけ? それって禁断の恋よね。

それで源太夫のもとに忍び込んで「ボクと付き合って」と迫ったらしいんだけど、にべもなく断られて逆上、又五郎は源太夫を殺害する。

殿様の愛人を殺しちゃったら、もうその藩にはいられないじゃない。又五郎さんはどうなるの?

一時は腹をきろうとしたらしいんだけど、それを父親の河合半左衛門に止められる。馬鹿な息子ほど可愛いっていうけど、何か因業めいたものを感じたんじゃないのかなぁ。実は半左衛門は若い頃に又五郎と同様の罪を犯しているんだ。

反目と意趣返し

えっ? 又五郎さんのパパもゲイだったの?


そうではなくて、上野高崎藩主・安藤重信に仕えていた頃、些細な理由で同僚を斬ってしまう。で、その逃走の際にたまたま通りかかった池田忠雄の大名行列に助けを求めたんだな。当時の武家社会では「窮鳥懐に入れば猟師も殺さず」という考え方だったから、池田忠雄は上野高崎藩から半左衛門の引き渡しを求められても受け付けないどころか、半左衛門に禄を与えて家臣にしてしまった。

それじゃあ、安藤さんも怒るわよね。殺人犯を匿うなんて、今で言う外交問題になっちゃうもんね。

そういう経緯を考えれば、半左衛門にとって池田忠雄は大恩人になるわけだけど、事もあろうか、子供可愛さのあまり、その大恩人を裏切って又五郎を江戸に逃してしまう。しかも、頼りにした相手が、かつての主君・安藤重信の親戚で旗本の安藤正珍だというのだから驚くよね。

え〜〜っ? よくわからないけど、かつての殺人犯の息子を受け入れるわけ?

そこに半左衛門の周到な計算があったんじゃないかな。確かに安藤側にしてみれば、又五郎は処罰すべき犯罪者の息子だけど、以前半左衛門の引き渡しを池田家に断られたという屈辱を、同様の「意趣返し」として晴らすチャンスが訪れたわけだ。そこを半左衛門は見越していたんじゃないかと思う。

ははぁ〜、「アンタ達が昔やったのと同じことをやってるだけだよ。文句ある?」ってことね。

そうなんだ。半左衛門の目論見はピタリと当たって、又五郎は安藤家に匿われる。池田側もこれには参った。文句を言えばそのまま自分たちに返ってくるからね。しかも相手は直参旗本だ。禄高では大名のほうが上だけど、家格は同格という意識が旗本にはある。だから、大名と旗本というのは互いに少なからず反感を持っていた。
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