虚構の中の真実 時代劇のヒーローたち

大岡忠相〜素顔の見えない名奉行

其の壱 「大岡裁き」の謎

今回のテーマは『大岡越前』って聞いたんですけど、最近やってた北大路欣也さんのテレビドラマならわかるけど、昔の番組は、子供の頃お父さんが見てたっていうボンヤリした記憶しかないのよね〜。

キミたちの年代はそうだろうけど、ワタシらの世代にとってはテーマ曲が耳に染みついてしまって、あの曲を聴くとどうしても加藤剛の顔を思い出すという“パブロフの犬”的な番組だ。

テーマ曲って、どんな感じでしたっけ?


You Tubeで聞けるから、まぁ、聞いてみなさいよ。



あ〜、思い出した。なんか時代劇っぽくない曲よね。


音楽を担当した山下毅雄はジャズ畑の人だからね。口笛も自分で吹いている。おそらくかつて山下が担当した刑事物の名作『七人の刑事』のテーマ、あのイメージを踏襲したんじゃないかな。

『七人の刑事』って言われても全然わからないんですけど…。


別にキミがわからなくても、わかる人がわかればいいよ。さすがに同じ時間帯で全43部、42年続いた『水戸黄門』には敵わないけど、『大岡越前』は1970年の放送開始から全15部、29年間続いた。ちなみに、2006年にはスペシャル番組が制作されたから、加藤版越前は足かけ36年ということになる。

テレビが作った人物像

でも、その間キャストもいろいろ変わったんでしょ。

『水戸黄門』の場合は主役の光圀が5人、助さん格さんが6人ずつ交替してるけど、『大岡越前』は主演の加藤剛、榊原伊織役の竹脇無我、吉宗役の山口崇は最期まで不動のままだった。だから、一般人が抱く大岡越前のイメージは、俳優・加藤剛のイメージそのままと言ってもいいだろう。

36年って言えば、生まれたばかりの子供がオジサン、オバサンになりかかるほどの歳月じゃない。その間ずっと同じ役を演じるなんて、凄い話よね。悪いことできないし。

惜しくも他界した竹脇無我が、生前、そういう作られたイメージに悩んでいたようだね。まぁ、9月26日からCSのTBSチャンネルで第一部が放送されるから、契約している人は今から42年前の若くてハンサムな主演陣を見てみるといいよ。但し、第一部第一回は、「キ○○イ」という差別用語を使ってるんで、放送されないみたい。You Tubeなら見られるけどね。

他にどんな人が出てたの?


レギュラーで忘れがたいのは第9部まで同心役で出演していた大坂志郎だな。この人の着物姿は凄く粋だった。それに第3部まで、与力の役で出演していた天知茂ね。この2人は深い人間味を漂わせて渋かったなぁ。加えてコメディリリーフとして欠かせない高橋源太郎や小松政夫、鳶を演じた若い頃の里見浩太朗や、忘れちゃいけねぇ大御所片岡知恵蔵に名優・志村喬‥。

黙って聞いてると、いつまでも話していそうね。そろそろ本題に入らないの?

うるさいなぁ。もう少し語らせろよ。越前の奥方・雪絵役の宇都宮雅代サンね。この人には日本中のオトーサンが骨抜きになった。その役柄を評して「日本女性の鏡」とまで言われたんだ。オトーサンたちは「それに比べてウチのカカァは‥」なんて、晩酌のビール片手にため息をついてた。

あはは。ウチのお父さんもそうだったのかな?


へへへ。たぶんそうだろうね。キャストだけじゃなくて、スタッフも東映の一流どころが固めていたんだ。特に前半は加藤泰、稲垣浩といった映画史に残る名匠や、後に作家になった池上金男が脚本を書き、佐々木康、工藤栄一といった東映時代劇を支えた監督も演出しているからね。劇場映画並みに質が高かったんだよ。
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