虚構の中の真実 時代劇のヒーローたち

長谷川平蔵〜人を信じ、人を活かす

ちょっと気になるんだけど、定信公は平蔵さんの名前を知らなかったの?“長谷川なにがし”って…。

もちろん知っていたさ。要するにあんまり話題にしたくない人物ということだろうね。ただ、その優秀さだけは認めざるを得ない。そんな複雑な心境が“なにがし”という表現に出ているんじゃないかな。

優秀なのに、どうしてそんなに嫌われたのかなぁ…。


それは、この後に出てくる平蔵の別の業績にも関係ある話なんだ。もし田沼の時代が続いていたら、平蔵は町奉行クラスになれたかもしれない。しかし、これだけの実績を上げたにもかかわらず、平蔵は8年もの間、激務の割に実入りの少ない火盗改をやらされた。前回紹介した矢部定謙だって火盗改を2年勤めて、大坂町奉行に栄転している。いくら長くても在職は4年ぐらいだから、これは極めて異例のことなんだ。

其の参 世界に誇る人足寄場

平蔵さんの別の業績って何? 悪党を捕まえただけじゃないの?


都市部への急激な人口増加で「無宿人」が増えた話はしたよね。この無宿人が犯罪の温床になっていたから、幕府は無罪の無宿人に関しては浅草にあった「非人溜」に収容させた。しかし、収容者が増えすぎて経費もかさむし、伝染病が蔓延して年間1000人もの死者を出す事態になっていたんだ。

年間1000人っていうのは尋常じゃないわね。


そこで松平定信が関係者にアイデアを募集した。そして「それがし試みん」と手を上げたのが、他ならぬ長谷川平蔵だった。

でも平蔵さんは凶悪な犯罪者を捕まえるのが仕事でしょ。ホームレス問題は関係ないような気もするけど…。

要するに、無宿人というのは戸籍を持たない人たちだから、寺社を管轄する寺社奉行の管轄でも、江戸の町人を管轄する町奉行の管轄でもないというわけさ。そうすると、必然的に火盗改の管轄ということになる。

変な理屈だけど、平蔵さんには何かアイデアがあったのかな?


それが、当時としては世界にもそう例がないというか、凄く近代的というか、実に天晴れなアイデアを持っていた。無宿人や軽犯罪者に生活の場と職業を与え、自力更正を助ける支援施設を作ろうというものだ。

うわ〜、本当に近代的ね。江戸時代にそういう発想をする人がいたのね。

それまで無宿人は佐渡の金山に送られて重労働を強いられて来たから、平蔵の案は実に人権を重視したものだった。だから平蔵嫌いの定信もこれは素直に受け入れた。具体的な施設の場所は石川島と佃島の中間地点、ここに両国にあった中州の土砂を埋め立てて整備するということもすぐに決まった。しかし、大きな問題があった。何しろ定信は倹約の代名詞みたいな人だから、平蔵に提示された予算があまりにも少なかったんだ。

アイデアは横取りするけど、お金は出さないっていうのは、政治家としてちょっと酷いんじゃない?

まぁ、定信公は将軍吉宗の孫で生まれつきのお殿様だからね。あんまり経済感覚がないんだな。土砂を削って運ぶのは諸藩に命令すればいいけど、それ以降の作業は平蔵任せということになる。平蔵だって所詮は役人だからね。私財を投じたって限界がある。

それじゃあ、計画は中止になっちゃったの?


普通なら諦めるところだけど、そこが平蔵の凄いところだ。平蔵は当時悪銭の鋳造によって下落していた銭相場に目をつけた。
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