虚構の中の真実 時代劇のヒーローたち

長谷川平蔵〜人を信じ、人を活かす

其の壱 二人の平蔵

前回の『遠山金四郎』ですけど、読者の方から「誰が主役かわからない」「長すぎる」「遠山金四郎の評価が低すぎる」という散々なクレームが来てますけど…。

そりゃあ仕方ないよ。史実をキチンと検証すればそういうことになる。生き方としては矢部とか鳥居の方が、遙かにキャラが立っているからね。その点遠山景元の場合は、後年になって作られすぎたキャラなわけ。それは本人のせいじゃないし、その人生を語って面白いか面白くないかはまた別の話だ。

そんな風に開き直ってばかりいると、読者からのアクセスが増えませんよ。

別に無理して読んでもらわなくてもいいよ。広告や制作費貰っているわけじゃないし、テレビみたいに一般受けを狙ってもいない。そもそもこんなマニアックな話を喜ぶ人たちは「タダモノ」じゃないからね。そういう人だけ読んでくれればいいの。

あ〜、やっぱり着いていけない。でも、窓口のワタシとしては、クレームばかりだと責任感じちゃいます。

取れもしない責任なんか感じてもしょうがないだろ。でもね、今回の『長谷川平蔵』は、遠山ほどドラマのイメージとかけ離れてはいない。その点、ファンにとってストレスは感じないかもね。

ちょっと安心したわ。だけど、金さんとは違って長谷川平蔵っていうと、ワタシは吉右衛門さんのイメージしかないなぁ…。

テレビが生んだヒーロー

まぁそうだろうね。テレビの『鬼平犯科帳』は二代目吉右衛門のライフワークと言っていいだろう。しかし、テレビドラマで最初に『鬼平』を演じたのは吉右衛門のお父さんである八代目松本幸四郎だ。そもそも原作者の池波正太郎は幸四郎のイメージで『鬼平』を書いていたようだから、まさに適役だったわけ。

そうなんだ〜。八代目松本幸四郎って言われても、ワタシは全然イメージ沸かないけど…。

吉右衛門の兄、九代目幸四郎は松たか子と市川染五郎のパパだから知ってるだろ。お父さんの八代目は大柄で重厚な役者だった。でも、『鬼平』の硬軟併せ持つ感じは次男の吉右衛門の方かな。だからテレビの2代目『鬼平』について池波正太郎は吉右衛門を推薦したんだけど、当人は「まだ若い」ということで固辞してきた。

確かにお父さんがやって評判になった役ってやりにくいでしょうね。

だと思うよ。それで2代目は丹波哲郎、3代目は萬屋錦之助が演じた。4代目になって、吉右衛門の実年齢が近くなったということで出演を承諾、それから23年続く異例のロング・シリーズになったわけ。

でも、映画化は一度だけなのね。ちょっと意外。

原作の連載が始まったのが昭和42年だからね。映画産業は斜陽期に入って、代わりにテレビが主役になっていたんだ。時代劇のスターも京都・太秦のスタッフもどんどんテレビに流れていった時代だ。そういう意味では『鬼平』はテレビが生んだヒーローと言っていいと思うよ。

テレビドラマっていうことは、原作とは違う脚本もあるのかな?


池波正太郎との取り決めで、オリジナル脚本は使えないことになっている。そもそも原作が135話もあるのに、それを全部使い切ったというだけで凄いと思うけど、それ以外の脚本は池波氏の他の作品をアレンジしたりして糊口を凌いでいるわけ。今、1年に1本ペースの「スペシャル版」になっているのは、そういう理由なんだ。

じゃあ、今テレビで新作が見られるのは幸せなことなのね。


実際の長谷川平蔵は50歳で死んだけど、今の吉右衛門は68歳の「人間国宝」だからね。ちょっと貫禄ありすぎるかも…。
<2ページ目に続く>